海に呟く

真夜中の突然の電話

海が見たいと呟いた君の声が
どこか落ち込んで聞こえた

翌日の出社前に
二人で海に出掛けた

潮風にスカートを揺らしながら
素足で走り出した君を追いかけ
誰もいない砂浜を走る

空はどこまでも青く
とても風が強い日だった

波打ち際で白波と戯れながら
はしゃいで手を振る君の姿に
僕は思わず頬を緩める

緩やかな弧を描く水平線に向かって
来てよかったとそっと呟いた

巣立ちのとき

二人をたとえるならそう
ツバメの幼いヒナ同士

たったひとつのお菓子を巡って
大喧嘩をしたこともあったっけ

明日の朝にこの家を出て行くけれど
この思い出があれば大丈夫
新しい場所でもきっとうまくやれる